自作で Video Chat 環境を作って導入した話 〜経緯編〜

弊社では九州の大分県にサテライトオフィスがあります。そのサテライトオフィス開設時に行った Video Chat 環境の検討経緯を紹介します。


「SEROKU フリーランス(以下、SEROKU)」の中の人をやっている ryosuke です。
今回は SEROKU の裏側の話から離れて、社内に Video Chat システムを導入した件について取り上げたいと思います。

初の会社拠点追加!どうやって開発業務を回す??

WESEEK の本社は東京の飯田橋にあります。殆どの社員は本社に出勤して開発業務を行っています。今回、新たに九州の大分に在住している方を社員に迎え入れることになりました。これに伴い、新たに別府オフィスを構えました。

さてここで懸念事項にあがるのが 「距離が離れた社員を交えても円滑に開発業務を行うことができるのか?」 という点でした。今回、別府オフィスを構えたのは、別府にいる人材を社員に迎え入れるのが目的でした。つまり「別府は別府で案件取ってきてそっちだけでよろしく開発してねー」ではなく、本社の社員と同一のプロジェクトに一緒に携わることを想定してオフィスを構えています。(たとえ別府付近の企業から案件を受注したとしても、別府オフィスの社員だけでなく本社の社員も含めてプロジェクトを回すことになるでしょう。)元々、WESEEK 社員は全員が本社に出勤し、同一の空間で集まった状態で開発をしています。東京にある本社と九州にある別府オフィス、当然ながら空間的な距離を埋めることは不可能なので、「同一の空間に集まって業務」は望めません。

WESEEK では業務のコミュニケーションツールとしては slack を使用しており、開発に関する会話は slack 上で行うことが殆どです。「みんな slack で話をしてるんだったら、どこで仕事しようが同じじゃない?」と思うかもしれませんが、slack 上での議論が込み入ったり、すぐに知る必要がある情報を尋ねるときは対面で会話した方がよいこともあり、全てを slack に頼るのにも不安が残ります。また、本社で対面で行った会話は、当人が明確な意思を持って slack などのコミュニケーションツールに会話の内容を転記しないと別府オフィス側には伝わることがなくなってしまいます。

上記のように想定されるコミュニケーションロスによる業務進行への悪影響を最小化すべく、まずは遠隔地であることを理由としたコミュニケーションの手間をできるだけなくす方法を検討しました。

いろいろあるコミュニケーション方法

コミュニケーションの手段はいろいろありますが、まずはそれぞれの手段における長所、短所を整理してみましょう。

対面での会話

まずは対面での会話です。基本的なコミュニケーション手段ですが、リアルタイムで会話を進める方法の中では情報の出力スピードが(例えばキーボード入力や手書きの文字などに比べると)早く、会話のキャッチボールのスピードとしては最速の部類に入ります。また会話の内容そのもののやりとりに加え、聴覚、視覚から受け取ることができる文字には含まれてない情報も知覚することができます。例えば声のトーンや言い直しがあったり、表情や身振り手振りなどがそれに当たるでしょう。これらを読み取ることで、発言などをとおして、自信満々なのか自信がないのか、不安に思っているのか、興味があるのか、ないのか、そもそも話を聞いていないのか、聞いていないにしても興味が無くて聞いていないのか、他のことで忙しそうで会話に参加する余裕がないのか等々、知ることができる情報が多くあります。会話の内容に加え、これらの情報も鑑みて会話中での応答の仕方を変えることもあるでしょう。また、声や身振り手振りだけで情報が伝えるのが難しい場合でも、ノートやホワイトボードを使って、その場で図を書いたり、論点を字に起こして整理しながら進行することもできます。

もちろんいいことばかりではありません。対面での会話は物理的に同一の空間に居合わせる必要があります。またリアルタイムで参加していないと会話の内容をキャッチアップすることができません。さらに会話に参加する場合は、会話以外の作業は一旦とめて会話に集中する必要があります。なぜなら対面での会話はその場ですぐ記録はされないので、会話に参加する以上はリアルタイムで内容を聞き続ける必要があります。会議などでも(議題の濃さにもよると思いますが、)内職していたり、ちょっと別のことを考えているとあっという間に置いてけぼりになったり、聞いていなかった期間の内容が欠落した状態で会話に参加することになります。従って、会話に参加して欲しい人全員の都合を同タイミングで拘束する必要があり、かつ人数が増えるほど会話するためのコストが膨らむ手法でもあります。また、作業に集中している人に話しかける様な場合は、相手に対し割り込みでコンテキストスイッチをしてもらう必要があるので、その切り替えによって元々の作業の手戻りが発生したり、再度集中するまでに時間がかかるなどの相手側にコストを強いる場合もあります。

今回は遠隔地にいる社員とのコミュニケーションを考える必要がありますから、対面の会話は取り得る手段から除外せざるを得ません。

手紙

それでは遠隔地とのコミュニケーション手段を考えていきましょう。まずはローテクな手紙(郵便)によるやりとりから考えていきましょう。伝えたいことを紙面上に文字にして、その紙を物理的に送りあいます。この手段なら遠隔地にいてもコミュニケーションが成り立ちますが、東京-大分間だと相手に情報が伝わるのに 1 日以上かかってしまい、リアルタイムでの会話にはほど遠いですね。採用には至らないでしょう。

遠隔地でリアルタイムのコミュニケーションをするには電気・電子の力に頼る必要がありそうです。(そりゃそうですね)

電話・Voice Chat

では電話はどうでしょうか?ここでは音声のやりとりができるツール(skype, LINE など)での Voice chat も電話に含めることにしましょう。まず遠隔地にいてもリアルタイムに会話ができます。また音声で伝えられるので対面での会話に近いスピーディーなやりとりが望めそうです。

一方で、相手の表情や身振り手振りなど視覚的な情報は伝えることができませんので、対面の会話ほど情報量は充実していません。また、音声のやり取りもマイク・スピーカーや DSP の性能に品質が依存します。品質が低いと、相手が何を話しているか伝わりづらくなり電話の利点を活かせなくなります。品質の高い機器を取りそろえようとすると特に初期導入時のコストも膨らみます。また、対面での会話と同様に会話を成り立たせるには相手の時間を拘束する必要があります。

電子メール

ではリアルタイムで情報を伝えつつ、相手の時間を強制的に束縛しなくて済む方法も検討してみましょう。電子メールはどうでしょうか?電子メールならば文字で伝えたいことを書き相手に送信することで、ほぼリアルタイムで遠隔地の相手が情報を受け取ることができます。また、受け取る側は自分の都合が良いときに届いたメールを読むことができるので、相手の作業に割り込むことなくコミュニケーションを取ることができます。また、対面での会話や電話と比べると特に特別なことをしなくても(メールを削除しなければ)あとでどういう会話をしたか見返すことも比較的容易です。

一方で、すぐに返信が欲しい場合は適した手段ではなさそうです。お互いに手が空いていて会話の内容に高い関心がある場合は、頻繁にメールをやりとりすることで会話が捗りますが、基本的にはメールを送信したからといって相手がすぐに読んでくれるとは限りません。送った側からすれば、もうメールを読んでくれたのか、まだ読んでいないのか、読んだとしたら今返信しようとしているのか、それとも返信するために調べ物をしているのか、それとも重要ではないと判断されて返信を後回しにされているのか知ることもできません。急いでいるときはやきもきしてしまうでしょう。また、伝える側も電話や対面での会話と比べれば文書を書き上げるのにはそれなりの時間を費やす必要があります。(タイピングの早さに依存します。)

チャット

(文字ベースの)チャットツールはどうでしょうか?これは電子メールと近い性質をもっています。こちらの都合の良いときに問いかけつつ、相手も都合の良いときにメッセージを確認して返信することができます。過去の会話を見返すこともできます。また、業務で採用されるチャットツールの傾向として 1 対 1 の会話ではなくチームで会話することを前提としています。従って、相談や疑問点をしたいときに特定の人に問いかける形でなくても、それに対して答えを持つ別の人が代わりに回答してくれることもあります。また、特定の誰かに問いかけたいときはチャットツールのメンション機能を使用することで特定の人に向けて問いかけていることを明示することもできます。(もちろんこの場合でも、手の空いている他の人が回答することができます。)また、メールとは異なり、相手が反応できる状況にあるかをある程度知ることができます(チャットへの参加状態の表示や、文字入力中であることを表示できたり、LINE のような既読通知機能など)。さらに(これは機能と言うより性質から来る文化的な違いといえますが、)

一方で電子メールと同様にすぐに返信してくれるかわからない(既読無視などもあり得る)、文章をタイピングするのにそれなりに時間がかかるなどデメリットがあります。更にチャットツールではあるチャンネル(チャット部屋)で同時に複数の異なる会話が行われた結果、内容が混線してしまうこともあります。混線はチャンネルを細分化すれば防げますが、あまりに分割しすぎると今度はチャンネルが膨大な数になり、どこのチャンネルですべき話題か、どこのチャンネルでした話題だったかを探すのが大変になってしまいます。

Video Chat

Video Chat はどうでしょうか?電話・Voice Chat の機能に加え、映像もリアルタイムに伝えられるようになりますので、電話の上位互換な手段と言えます。電話よりもさらに対面での会話に近いやり取りが望めそうです。例えば、電話ではつかめなかった相手の表情もわかりますし、言葉だけでのやり取りでは伝えにくい部分があればノートやホワイトボードを使ってその場で図を書きながら共有することもできるでしょう。また、PC の画面共有機能を持つツールもあるので、議論となっている画面をお互いに見ながらやり取りすることもできます。

一方で、映像を HD でも送受信できる時代になったとはいえ、対面と同等の解像度や画質を実現できているわけではありませんので、対面と比べれば認識できる情報は劣るでしょう。もちろん画質も(電話と同様に)音質の良し悪しも機器の性能に依存しますので、品質を高くしようとするとコストに跳ね返ります。音声に加え、映像の品質も上げようとするとその分、電話よりもコストがかかりそうです。また、対面での会話と同様に会話をするのに相手の時間を拘束する必要があります。

WESEEK 的なコミュニケーションのいいとこ取り

上記にいくつかのコミュニケーション手段に対し、長所・短所を挙げました。特徴を整理すると、電子メールとチャットは文字コミュニケーションベースのコミュニケーションであり、一方で対面での会話と電話、Video Chat は音声(+映像)でのコミュニケーションという性質を持っていますね。

さて、実際に遠隔地の社員と円滑に業務を遂行するためのコミュニケーション手段は何を採用するのが良いのでしょうか?

現行の本社内でのコミュニケーション手段については重大な問題なく円滑にできている認識です。したがって、本社内でとっているコミュニケーション手段と同等、またはそれに近い手段を遠隔地に対してもとることができることを目標に手段を選ぶのが良いと考えました。

WESEEK 社内では主なコミュニケーション手段はチャットと対面での会話が使われていると思います。基本はチャット上でやり取りすることで相手の作業に割り込こんで止めてしまうコストを減らしつつ、かつ議論もチャットログを見返せば途中から参加することもできます。しかし急ぎで応答が必要な時、特に答えや結論が出るまで業務が止まってしまうような場合にチャットで問いかけても、相手の反応がないく仕事にならない場合もあります。優先度の高い業務の場合はその日がいわそんな時は対面での会話が有効です。相手の作業を一時的に止めるコストを支払ってでも会話を行うほうが結果として全体の業務が滞らずに進む場面もしばしば見受けられます。このように WESEEK ではチャットと対面での会話という手段を使い分けて、いいとこ取りのコミュニケーションを行っています。

チャットツールは slack を使っており、これを別府オフィスの社員に使ってもらうことは容易です。したがって、文字ベースのコミュニケーション手段ではわざわざ既存の方法を変えるまでもなく slack を使ったチャットを引き続き使えばよさそうです。これにくわえて「対面での会話」に相当する代替手段を用意する必要があります。近い性質を持つ手段の中では Video Chat が最も対面での会話に近い品質を提供できそうです。その分、コストがかかるものの、今回はコミュニケーションロスによる業務進行への悪影響を最小化するという点を重点に置き、 Video Chat をコミュニケーション手段に加えることにしました。

まとめ

今回は新拠点の設立をきっかけとして、Video Chat を導入するに至った経緯についてお伝えしました。次回は、実際に導入したサービスと機器の選定などについてお伝えする予定です。