Raspberry Piでコミュニケーションシンクロ率を上げる

この記事は、 2021/4/8 に行われた WESEEK Tech Conference の内容です。

Raspberry Pi や Arduino を使ってデバイスを作成し、社内環境の改善をするお話をしました。今回のお話は、ハードウェアについてが多めです。時間の都合でソフトウェアの話まで広げられなかったので、それはまた後日記載したいと思います。

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目次

WESEEK の 日常と課題

弊社では、リモートで稼働するときに Google Meet を利用しています。リモートで稼働する場合は、Google Meet に常時接続をして、オフィスで一緒に仕事をしている感を共有しています。社内にある大型モニタには、 Google Meet 参加者全員を映しています。弊社は、高田馬場オフィスと別府オフィスの2つの拠点がありますが、各拠点にはカメラを各1台ずつ設置しています。

さて、その各拠点に設置したカメラからの眺めですが、こんな感じです。

けっこう暗くて地味です。あまり、わくわくしません。

また、社内イベントをする際は、スマホカメラを三脚に固定してリモート参加者に中継しています。カメラは三脚に固定されているので、カメラの裏で起きたリアクションなどフレーム外でのできごとが咄嗟に共有できない課題があります。

そこで、楽しさを共有できて全員にスポットを当てられる、そんなカメラが社内に必要だと思いました。

理想のデバイス探し

どんな機能を持ったカメラがあると、社内の課題を解決できるか考えました。

  • カメラの向きを自由に動かせる
  • 高画質
  • 光学ズームできる
  • 話している人に自動でフォーカス・追従する
  • APIで他のシステムと連携できる
  • カメラ自体が自分で移動できる

探してみると、いくつか見つかりました。

安価なものでも 3~4万円、高機能なものでは 10万円以上するものもあり、なかなか高額でした。

API を提供しているものは少なく、自走するものは1つもありませんでした(笑)

既製品では、 WESEEK の課題を解決できるぐっとくるカメラが見つかりませんでした。

なければ、作るしかない。作ろうと決意しました。

デバイス製作の工房探し

さて、カメラデバイスを作ろうと決意したものの、作業できる場所がありません……。
自宅は壁が薄いので、工作機械を使うとすぐに苦情が入ってしまいます。

そんな作業場所を探している頃、社内では mokumoku 会というものが盛り上がってきていました。

mokumoku 会とは

mokumoku 会は、毎週末に会社で開催し、自己学習をもくもくとやる場です。数人のインターン生が集まり、自主的に勉強していたところから始まり、会社を開放して大きくなっていった活動です。

mokumoku 会では、Reactや、Node.jsや、Kubernetesや、デザインなど、業務に関連することを各々勉強していました。

そして、ふと気が付きました。

「mokumoku 会の中で、カメラデバイスを作ればいいじゃん」と。

WESEEK の工房化

mokumoku 会でカメラデバイスを作ろうと決意してから、加工に必要な工具、電子部品等を自宅からどんどん会社に持ち込みました。

グラインダー、ヒートガン、ボール盤、これらはIT系の会社ではまず見ないものですね(笑)

こうして、WESEEK はあっという間に工房化し、 mokumoku 会から「ものづくり部」が誕生しました。

賢いカメラ neighbo <ネイボ> 誕生

今回製作したカメラデバイスには、 neighbo <ネイボ> という名前を付けました。製作の過程は後述しますが、先に neighbo の機能紹介をしたいと思います。

neighbo には、こんな機能や特徴があります。

  • MQTT経由で操作できる
  • Xboxコントローラーで操作
  • 声のする方向に振り向く
  • 360度何回転でもできる
  • 愛着の持てるフォルム
  • 安定性
  • 高品質な映像
  • 上下左右自由に動かせる
  • 高い拡張性

既製品にも同じような機能はありますが、自作デバイスのため、拡張性についてはかなりあると思います。

neighbo を構成する部品はこのようになっています。

  • logicool C920n
  • 3M 超強力両面テープ
  • ReSpeaker Mic Array v2.0
  • USB ハブ
  • Arduino UNO
  • Raspberry Pi 4 Model B
  • ポテンショメータ
  • バイポーラステッピングモーター
  • スリップリング
  • 電磁ノイズ対策用シールド
  • OLED ディスプレイ

neighbo の部品の固定には、いたるところで両面テープが使われています。これは、以前 iPhone の分解記事を見ていたときに、主要な固定を両面テープで行っていたのを真似しました。

カメラは、一般的な Web カメラです。

ReSpeaker Mic Array v2.0 は、360度マイクで、声のする方向に自動的に振り向くようになっています。

neighbo が実際に動く動画がこちらです。

カメラロボ(ネイボと呼んでいる) に ReSpeaker Mic Array v2.0 をつけて、音の方向に自動で振り向く機能をつけた!近場はゆっくり、反対側は高速で振り向く。
pic.twitter.com/RRNh4xySzA
— たむーん (@Aqutam)
February 9, 2021

今回製作した neighbo の完成までには、いくつもの試行錯誤がありました。

デバイス製作の試行錯誤

試行錯誤1: 試作・設計

デバイスを作ると言っても何から始めようと悩みました。これまで、 Raspberry Pi は、Lチカくらいしかやったことがなく、本格的にデバイスを作成するのは初めてでした。

とりあえず、モーターを回してみることにしました。

秋月電子でステッピングモーターとモータードライバーを購入し、配線してすぐにモーターを回すことができました。

設計を進める上で、初号機には必ず搭載したい機能がありました。

それは、「360度回転」です。

これを実現するためには、スリップリングという部品を使います。

スリップリングとは、回転体に電力・信号を伝達することができる回転コネクタのことです。この部品により何回転してもコードが絡まらなくなります。

ステッピングモーターを回すことができましたし、このスリップリングと組み合わせて、試作機を作ることにしました。

とは言ったものの、今度は設計をどう進めるか、悩みました。

少し話は逸れて、neighbo を作る前に ito-ocashi スタンドというものを作っていました。

これは、MDFという板を、レーザーカッターで切り抜き、木工ボンドで接着して組み立てた物です。

ito-ocashi スタンドの設計をする際は、上の画像の左上のように手書きで立体の設計を行っていました。それを左下のように図面を作成しレーザーカッターで切り抜きました。頭の中で立体を考えるのはとても大変で、実際に作ってみたら後から考慮不足も多々見つかりました。

neighbo は、ito-ocashi スタンドよりも複雑なものになるため、手書きでの設計はやめ、 CAD を使うことにしました。

Fusion 360 というソフトで設計しました。YouTube に公式チュートリアルがあるので、2時間程ですぐ始められます。ですが、ねじ1つから、部品を1つ1つ作図していく必要があるため、試作機の設計にはまる2日かかりました。

完成した試作機のイメージはこちらです。

設計が終わったら、次は加工です。 MDF をレーザーカッターで切り抜きました。

レーザーカッターは、 FabLab Setagaya を利用しました。ここでは、 45分 2,040 円でレーザーカッターを利用できます。

ネジや金具などの部品は、 モノタロウミスミ で調達し、試作機の組み立てをしました。

組み立てた試作機がこちらです。

モーター回してみた!
軸が曲がっちゃってるのと、プーリーがセンターからずれてしまって、だいぶガタガタしてる。
pic.twitter.com/OCUDNnU55w— たむーん (@Aqutam)
November 14, 2020

試行錯誤1: 試作・設計 の気づき

試作機を作ってみて下記のことを気づくことができました。

  • CADを使うと設計ミスが劇的に減った
  • 工業用部品の調達は「モノタロウ」「ミスミ」が便利
  • スリップリングは高い、無限回転が本当に必要なのか設計時にしっかり考える

試行錯誤2: チルトユニットの製作

次の試行錯誤は、チルトユニットの製作です。初期型 の neighboにはチルト(上下)機能がありませんでした。

社内のイベントでカメラを下に向かせたい場面が多々ありました。ということで、チルト機能を突貫で作りました。

作ったチルトユニットがこちらです。

遠隔操作カメラにチルト機能(上下)をつけた! pic.twitter.com/KRRAOSKNo2— たむーん (@Aqutam)
December 20, 2020

ステンレス板にボール盤で穴あけをしたのですが、ステンレスが非常に硬く、買ったばかりのドリルの歯を数本溶かしてしまいました。

このチルトユニットは、電源が切れると下の動画のように困ったことが起こります。

急に停電すると…。これはよくない。 pic.twitter.com/bWbaZqhTm3— たむーん (@Aqutam)
December 22, 2020

姿勢を電力で保持しているので、電源断で勢いよく落下してしまいました。
カメラへ相当なダメージがかかってしまいます。
(実は、設計段階で薄々気がついてはいました……)

このままでは良くないので、改良版の設計開始です。

改良版の設計もまた Fusion 360 で行いました。

初期のチルトユニットと異なり、カメラのレンズの中心でチルトできる機構に、映り方を改善しました。また、電源が切れても振り子のように安定して、カメラにダメージがかからないようにしました。ポテンショメータを追加し、チルトの位置の上限・下限も管理できるようにしました。

MDFをレーザーで切り抜き、組み立て、完成した改良型チルトユニットがこちらです。

実際に動かしてみて、痛恨の設計ミスに気が付きました。
ステッピングモーターを外側に配置してしまったため、回転時に振られて本体の脚が浮くようになってしまったのです。
(実は、こうなることは設計段階で薄々気がついていました……)

試行錯誤2: チルトユニットの製作 の気づき

チルトユニットを作っての気づきは下記です。

  • 回転体の重心は常に意識して設計する
  • ステンレス板は難加工材、アルミ板を選ぶ
  • 金属ギアは重い、できればプラスチックを選ぶ
  • タイミングプーリーとベルトの角度は十分に取る
  • もしくは、アイドラー・テンショナーを入れる

その他の試行錯誤

この他にももっと試行錯誤の紹介をしたかったのですが、時間が足りませんでした。

  • 金属軸の加工
  • モーターの異常発熱を抑える
  • 冷却ファンの選定
  • 増える電源の種類に悩まされる
  • ソフトウェアの構築
  • 急な電源断に備える
  • 電磁ノイズを抑える
  • 目的を達成するための部品をどうやって探すのか

これらについては、また後日 Tech ブログに記載したいと思います。

neighbo の成長

neighbo は、 2021/11 から作り始めて、3ヶ月で現在の形になりました。

導入と効果

neighbo を実際に社内で稼働させて、下記の効果があったと思います。

  • neighboを自由に操作できるので、会社に一緒にいる感が強まった

  • neighboが賢い動きをするので、社内で度々話題になる

    • 導入前よりもコミュニケーションが増えた
  • neighboを前にして、リモート越しに会話するようになった

結果として、 社内のコミュニケーションシンクロ率はアップしたと言えます。

かかった費用

この neighbo 、 既製品より安くできたのでしょうか。

こちらが部品・加工費一覧です。

「¥84,676」

既製品とまずまずの金額に落ち着きました。

しかし!

加工するために使った工作機械を含めていませんでした。

工作機械の金額がこちら。

「¥117,520」

合計すると、

「¥202,196」

既製品の倍以上の金額になってしまいました。

気づき

大量生産による低価格化がいかにすばらしいかを実感しました。

まとめ

あえてデバイスを自作する良さを上げると、下記が考えられます。

  • 既製品を買ったほうが早いし、安いが、作るのは楽しい

  • 既製品と違い、みんなが要望を出してカメラが成長していく

    • その過程で自然とコミュニケーションが活発になる
  • 気づきの連続だった

これらは、既製品を買っただけでは得られなかったことだと思います。

neighbo の展望

neighbo には、まだまだ搭載したい機能がたくさんあります。

  • 車輪を積んで自走
  • ズームできる
  • 小型化
  • ROSの導入
  • 録画できる
  • Slackから操作
  • 豆まき
  • HQ Camera
  • 静音化
  • ヘッドライトの搭載
  • 外見のデザイン
  • WebRTC
  • 映像処理の外出し
  • 電源の種類を少なくする
  • 声コマンドで操作
  • ジェスチャー操作
  • 画像認識
  • 機械学習
  • 他拠点にも置く
  • API
  • DAWとの連携

これらの機能が搭載できたら、また別の記事で紹介したいと思います。

著者プロフィール

田村 貴幸

株式会社WESEEK / システムエンジニア

Webシステム開発会社を2社経験後、2019年8月にWESEEKに入社。
現在は、大手IXの業務自動化システムの機能開発やインフラの設計・構築に携わる。
2020年に、部活動「ものづくり部」を立ち上げ、社内の困り事をIoTを駆使して解決に努めている

株式会社WESEEKについて

株式会社WESEEKは、システム開発のプロフェッショナル集団です。

【現在の主な事業】

  1. 通信大手企業の業務フロー自動化プロジェクト
  2. ソーシャルゲームの受託開発
  3. 自社発オープンソースプロダクト「GROWI」「GROWI.cloud」の開発

GROWI

GROWIは、Markdown記法でページを記述できるオープンソースのWikiシステムです。

【主な特徴】

  • テキストも図表もどんどん書ける、強力な編集機能
  • チーム拡大に迅速に対応できる管理者向け機能を提供
  • 充実した機能・サポートでエンタープライズにも対応

GROWI.cloud

GROWI.cloudはOSSのGROWIを専門的知識がなくても簡単に運用・管理できる、法人・個人向けの商用サービスです。

大手Sier・ISPから中小企業・大学などの教育機関まで幅広くご利用いただき、さらに個人や大学サークルでもご利用いただいています。

【導入事例記事】
インターネットマルチフィード株式会社様
https://growi.cloud/interviews/mfeed/?utm_source=connpass-top&utm_medium=web-site&utm_campaign=mf

株式会社HIKKY(VR法人HIKKY)様
https://growi.cloud/interviews/hikky

WESEEK Tech Conference

WESEEK Tech Conferenceは、株式会社WESEEKが主催するエンジニア向けの勉強会です。
月に2回ほど、WESEEKに所属するエンジニアが様々なテーマで発表を行う予定です。

次回は、4/22(木) 19:00~20:00に開催予定。
k8s本番サービスの運用ノウハウについて、バックエンドエンジニアの今間がお話します。

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